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特集 イベントレポート Vol.4

京都藝術 KYOTO ARTS 2010 京都藝術トークイベント 2/2 ~第二部 京都でアートを見せること~

ゲストスピーカー:
0000(アートグループ)/石橋圭吾(neutron代表)/井村優三(IMURA ART GALLERY代表)/
塩谷舞(artDive実行委員(前)、SHAKE ART! 代表)/原智治(京都市文化芸術企画課)/
松尾惠(MATSUO MEGUMI +VOICE GALLERY pfs/w主宰)/森裕一(MORI YU GALLERY代表取締役)

聞き手:
Antenna(アーティストグループ)/小吹隆文(美術ライター)

京都の芸術の全体像を見渡す機会を創出し、様々な施設、団体などの連携を目指すべくスタートしたプロジェクト"京都藝術"。&ARTでは本プロジェクトのメインイベントとして、元立誠小学校自彊(じきょう)室にて2部構成で行われたトークイベントを1部と2部の、2回に分けて掲載する。第2部のテーマは、「京都でアートを見せること」。ギャラリスト、アートグループ、メディア関係者、文化行政担当職員ら9組が集い、それぞれの立場から、京都でアートを発信していくことの意義、難しさ、そして可能性について語ってもらった。

編集:小吹隆文 photo by OMOTE Nobutada

自分たちの表現を、ネットワークを構築して発信していける良さ

古川きくみ(Antenna) : 大変お待たせしております。それでは『京都藝術』トークイベント第2部「京都でアートを見せること」を開始させていただきます。まずはじめに、Antennaの田中より今回のイベントの経緯についてお話させていただきます。

田中英行(Antenna) : 第2部では、この人には絶対来てほしいという方にお願いをしました。 結果、皆さんからご了承をいただき、これだけの方々が集まってくださったことを本当に奇跡的だと感じています。皆さんの意見を頂戴して、京都の芸術についてより深く考える機会を作れればと思っています。それではマイクをお渡しします。

小吹隆文 : 第2部では、ギャラリーの方、行政の方、メディアの方にお集まりいただきました。皆さんに京都で活動するとはどういうことなのかを語っていただき、それぞれの立場による差異が明らかになれば良いと思っています。まず、ギャラリーの方からお願いします。

森裕一 : 京都には独特のトポスと言いますか、場所性があると思います。浅井忠から、梅原龍三郎、安井曾太郎、黒田重太郎など、京都の洋画壇を支えてきた芸術家が大勢いて、その流れが今も根付いています。ですから、村上隆さんや奈良美智さんとは違った傾向の作家が出てくるのではないでしょうか。例えば、ここに一本のボトルがあるとして、それが実在しているかのように描くだけではなく、ボトルの中身について考える姿勢が京都にはあるということです。もちろん技術は必要ですが、本歌取り、表象的な作風でなく、内容を重視した作家を僕は選んでいます。

松尾恵 : 京都には美大をはじめ、大学がたくさんあります。京都で活動をしている芸術家はほとんどの場合非常に高等な教育を受けていて、私たちが京都でできることはその特殊性の中にあるのかなと思っています。この京都の環境の中で、研究というか思索というか、現代に生きている人がどんなことを考えどんな世界観を持っているのか、それを美術でどうアウトプットするのかを一緒に考えていきたいと思っています。

森裕一さん

森裕一さん


井村優三 : 20代前半の頃、作品の買い付けでロンドンのオークションに行ったことがあります。そこでは日本の古美術品が取り合いになっていたのですが、その様子を見て日本美術の素晴らしさを再認識しました。オークション会場からちょっと抜け出すと、近所の現代アートギャラリーでは素晴らしい展覧会をやっていて、古いものと新しいものが一線上に繋がっていることを確信しました。そうした体験から、ここ京都で100年先200年先につながる架け橋のような仕事をしたいと思ってギャラリーを始めました。だけど、京都には古いものを見せる所はあるけど、現代のものを見せる場所もマーケットもない。それらを皆で作っていけたらと思います。

石橋圭吾 : 僕は生まれも育ちも東京で、大学進学で京都に来ました。大学は美大ではありません。そんな僕ですが、音楽や写真をやったりライブハウスで働くうちに京都の魅力にはまり、京都には自分たちの表現を、ネットワークを構築して発信していける良さがあると強く感じるようになりました。そして約10年前にギャラリーと飲食とショップからなる、衣食住の複合施設である、ニュートロンを立ち上げました。現代美術を知らない方でも入りやすい日常的な空間にすることで、作り手の気持ちも届きやすくなるだろうし、美術の経済も生まれるんじゃないだろうか、そういうシンプルな考えに基づいて運営しています。それから、今年5月にはホテルモントレ京都で『アートフェア京都』を開催しました。これは僕一人ではなく、井村さん、森さんなど、いろいろな方のご協力をいただいて、非常に画期的なフェアになったと思います。今年は1フロアのみでしたが、来年は2フロアを使って規模が倍になります。京都のシーンも着々と育っているという手応えを、京都以外の人にも発信できるよう、これからも頑張っていくつもりです。

井村優三さん

井村優三さん

小吹隆文 : 今、アートフェアの話題が出たので補足します。今年はもう一つ『超京都』というアートフェアが、伝統的な京町屋の杉本家住宅を会場に行われました。先ほどお話いただいた松尾さんはそちらに関わっておられます。では、次からはギャラリー以外の方です。

緑川雄太郎(0000) : はじめまして。0000(オーフォー)です。僕ら4人は作家ではなく、アートグループとして活動しています。今年2月27日には京都に0000ギャラリーをオープンして、パーティーイベントや展示企画などいろいろやっています。4月には『アートフェア東京』の開催時期に合わせて『ART FAIR FREE』という展覧会を企画し、京都でも『アートフェア京都』のサテライト企画と称して『¥2010 exhibition』を行い、好評をいただきました。今年8月には四条の御幸町通に「アートのセレクトショップ」というコンセプトで0000ショップもオープンしています。皆さんもぜひ遊びに来てください。

塩谷舞 : 私は京都市立芸術大学の総合芸術学科に在籍しています。総合芸術学科はアート・プロデュース系の学科で、言い換えれば、研究者やキュレーターを育てるところです。京都にはたくさん芸術大学がありますが、縦のつながりは強くても、大学を超えた横のつながりが希薄だと感じたんです。だからこの雑誌は京都市立芸術大学、京都精華大学、京都造形芸術大学、成安造形大学、一般大学と様々な大学のメンバーで制作していますし、それが強みでもあります。そして雑誌名そのままに、様々なところで敷居が生まれがちなアートシーンを"SHAKE"することで、より活性化出来ないかと思っています。また、これまでにみやこめっせで2回開催した「artDive」というイベントの運営も行っていました。出展者が250名を超える大型アートフェスです。現在私は運営からは離れているのですが、artDiveは参加の仕方によってどんな方でも活用できる、京都のポータルイベントとして確実に育っていっていると実感します。

原智治 : 京都市文化芸術企画課の原と申します。文化芸術企画室というのは、京都市の文化政策全般を担っているポジションです。文化というのは非常に幅が広くて、現代美術はもちろんですが、伝統芸能やお茶、お花など、暮らしに根付いた文化も扱っています。二条城、市内に点在する古い庭園、美術館、動物園、交響楽団、京都芸術センターなどが我々の担当です。今日は現代美術のイベントですが、京都で美術を見せる時には非常に古いものなども含めて、一つの領域にとどまらない発想で物事を考える必要があると感じています。それが一つの鍵になるのかなと思っています。

緑川雄太郎(0000)

緑川雄太郎さん(0000)


海外からもお客さんを呼べるように京都の古いものと新しいものを繋いでいく

小吹隆文 : とりあえず一巡しましたが、今までの話の中で、「なぜ0000が京都にやって来たのか」ということが気になりました。なぜ京都なのかを聞くことで、一つの答えが見つかるかもしれません。

緑川雄太郎(0000) : 都市にはそれぞれスイッチがあるような気がしています。例えば大阪だと「食い倒れスイッチ」かも知れませんが、京都には「文化のスイッチ」があるように思います。歴史的・文化的な背景がしっかりしているから、住人も来訪者も文化のスイッチが入る。そこで現代美術を見せることが、日本ではベターじゃないかということで、僕らは京都に集まりました。

小吹隆文 : 京都に来られて約8カ月ですが、実際の所どうですか。

緑川雄太郎(0000) : 例えば「京都の人は腹黒い」みたいなイメージがあるじゃないですか(苦笑)。それは若干危惧していましたが、実際は「こんなに力を貸してくださるんだ」みたいなことが結構ありました。だから、閉鎖的とか腹黒いとかはあまり感じてないですね。『京都藝術』も最初は実現できるか分からなかったけど、最終日にこれだけのお客さんが集まってくれたので、すごく嬉しいです。

小吹隆文さん

小吹隆文さん


田中英行(Antenna):僕も4月に0000と出会った時にしつこく聞いたんです。「なんで京都に来たんだ」って。彼らいわく「顔が見える」と。東京でやっていた時はあまりにも街の規模が大きすぎて、いろんな人を繋いでいくことができなかった。どこかで誰かが文句を言っていても、当事者同士が顔を突き合わせる機会はなく、それが凄く不健康だと感じていたそうなんです。京都はコンパクトな街の中にある程度顔が見える状態がありますし、それが利点だと彼らは感じたんじゃないでしょうか。

石橋圭吾 : 僕も東京出身なので0000の気持ちはよく分かります。東京は街がいっぱいあって、街ごとに人種も流行も違うので、「これをもって一つの東京」とは言えないんです。京都はそういう状態ではないので、ある種の安息感があります。作り手も着々と作品を作れるんじゃないでしょうか。関西の作家さんは人の話を全然聞いてなかったりするけど、ものすごくユニークですね。第1部のヤノベさん、名和さん、金氏さんも、関西で培ったオリジナリティーで日本を席巻しています。だから、皆さんも自信をもって京都で頑張ればいいと思います。

森裕一 : 僕は京都出身だけど、実は京都が好きじゃなかった。好きになったのは大学時代に大阪に出て、外から京都を俯瞰するようになってからです。でも、良くない所もあります。一つは伝統と現代を繋ぐのが難しいこと。これは京都なりの方法を見つけなければいけません。もう一つは、京都の大学は割と放任主義で、何事につけ「ゆっくりやろうや」という傾向があるということです。それは京都の良さでもありますが、ゆるくなりすぎて作家が埋もれてしまうケースもあります。

松尾恵 : 先ほどから皆さんが言われる街のコンパクトさですが、終電を気にせず夜遅くまで学校にいたり、街中で遊んだり、話ができるという良さもありますよね。また、美大に限らず、市内に大学が多いのも重要だと思います。身近にいろんな勉強をしている人がいるのは刺激になりますから。ただ私もそうなんですけど、京都ってどうしてもまったりしちゃう。グローバルス・タンダードな上昇志向をもてる場所ではないので、よほど気をつけないと、まったりしたまま終わってしまいます。

田中英行(Antenna)

田中英行さん(Antenna)

小吹隆文:先ほどの第1部で、名和晃平さんが「なぜ京都には現代美術館がないのか」と言っていました。以前、井村さんから同様の話を聞いたことがあるので、話していただけますか。

井村優三 : 京都は美術大学が多いじゃないですか。ほとんどの学生さんはアーティストを職業にしたいと思うんです。じゃあどうしたらアーティストになれるのかということを考えなくちゃいけない。そういう意味では、京都市には学生と文化にもっとお金をかけてほしい。今、石橋君や森君がマーケットを作ろうと頑張っているけど、そこから現代美術館に繋いでいって、海外からもお客さんを呼べるように京都の古いものと新しいものを繋いでいく。そうしなきゃ駄目でしょうね。

原智治 : 全くその通りだと個人的には思うのですが、いかんせん個人と行政の立場はなかなか折り合わないものでして……。

京都藝術トークイベント風景

(観客席から)頑張れ!

原智治 : ありがとうございます。もちろん私も京都市に現代美術館があればいいと思いますし、市の基本計画にも「若手の芸術家を育てる」という項目があります。でも、先ほども言ったように、文化は非常に幅が広いですよね。特定分野の主体が見えないと、行政としては動きにくいのです。現代美術というのは、非常に面白いものであるにもかかわらず、社会的なメジャー性やインパクトがないんです。現代美術がもっとメジャーにならないと、京都市が何百億も使って新しい美術館を作る状況は生まれません。

松尾恵 : 京都市にとってメジャーというのはどういうことでしょうか。

原智治 : 簡単に言うと、多くの人が「応援したい」、「これは面白い」、「お金を出してもいい」と思っている状況です。もちろん行政がそれを担保するという考え方はある訳で、そのためにスタジオを作ったり、子供に何を見せて行くのか、どういう文化を作って行くのかということは考えています。

森裕一 : パリにはポンピドゥ・センターという美術館があります。ここには1977年の開館以来、一日平均約2万5000人の観客が入場しています。海外からのお客さんも多くて、アートが外貨を稼いでいるんです。京都市にもパリと同様の資質があると思います。だから、まず海外の事例をリサーチしたうえで、コレクションをしつつ、常設展示室の充実した現代美術館を建てる。いかがですか。

原智治 : 京都市には京都市美術館がありますよね。ここのコレクションには非常に良いものが沢山ありますから、皆さんぜひ足を運んでください。多くの方が京都市の美術を支えよう、盛り上げようという気持ちを見せていただければ、森さんの言う通りになるかもしれません。

小吹隆文:ちょっと、原さんへの集中砲火になっていますね。そんなつもりはなかったのですが。ここらで少し方向性を変えましょう。

原智治さん

原智治さん

松尾恵さん

松尾恵さん


普通の人がアートについて自分の物差しで発言できるようになってほしい

田中英行(Antenna) : 美術関係者やアートファンの盛り上がりだけでなく、アートと距離がある人、きっかけを求めている人とどう繋がっていくかが大事だと思います。その点、塩谷さんのしていることは重要だと思うのですが。

塩谷舞 : 私たちの雑誌はまだまだ未熟ではありますが、中高生が読むファッション誌のアート版のようなものを目標に発行しているんです。ファッションに関わる第一歩のように、SHAKE ART!が最初のきっかけとなってアートに関心を抱いてほしい。そうして先ほど石橋さんが言われたように、今後はもっと衣食住や他の文化と一体になって広い層に訴えていきたいという気持ちがあります。いろんなメディアを巻き込んでいきたいし、自分自身が仲介役となって発信したい。層を広げるために活動する人間がもっと増えればいいと思うし、そういう職場がもっとあればと思います。

緑川雄太郎(0000) : アートのメジャー化問題で言えば、今よりもアクセスしやすくするのが一つの課題だと思います。僕らはその辺りに取り組んでいきたい。0000に来てくださる方は割と若い人が多いのですが、彼らに「画廊のオープニングパーティに行きますか?」って聞いたら、あまり行ってない。どうやら行きにくいらしいです。でも、例えばイムラアートギャラリーとか、気軽に行ってもいいですよね。

井村優三 : もちろん。いつでも来てくださいよ。

緑川雄太郎(0000) : 単純に遊びに行ったらいいと思うんです。「今日のトークを聞いて来ました」でもいいですし、そんな感じでアクセスしやすい環境が作れれば。『京都藝術』もそういうものとして考えていますし。

塩谷舞さん

塩谷舞さん


石橋圭吾 : 今日ここに来られた方でギャラリーに行ったことがない人は、ぜひ出かけてください。そして、感想をいろんな所で触れ回ってください。口コミこそメディアです。街中や喫茶店で誰かが喋っている生の声が一番影響力があるんです。皆さんの声が状況を作っていくと思うし、オープニングパーティーに行ったとか、アートフェアに行ったことを喋ってくれたらと思います。

緑川雄太郎(0000) : 喋りたくなるぐらい魅力的な企画を僕らも作っていかなきゃ駄目だし、作家はそれだけの作品を作らなきゃいけない。もちろん批評も大事だし、いろんな要素が必要だと思います。京都ならそんな状況を何とか作れるんじゃないか、その兆しは感じています。

石橋圭吾

石橋圭吾さん

市村恵介(Antenna) : 最初に井村さんが言われたように、京都の歴史や古いものが今と繋がっていることが大事だと思うので、皆がそれを実感できるようになればいいと思います。そして石橋さんが言われたように、普通の人がアートについて自分の物差しで発言できるようになってほしい。自分もそういうことに向かって活動していくつもりです。

小吹隆文:ありがとうございます。そろそろ時間が来たので締めさせていただきます。私個人は、初心者向けの親しみやすいイベントから、ハイカルチャー向けやグローバル・スタンダードなイベントまで、全部が必要だと思っています。つまり、美術業界の階層構造が綺麗に作られている状態です。今回ご出席された画廊の皆さんが挑戦しているのは、今の京都に欠けているアートマーケットの創造ですし、それが形になってきたらいよいよ原さんの出番で、旧来型ではない攻めの文化行政をぜひやっていただきたいと思います。まだまだ聞き足りないという方もおられると思いますが、後はそれぞれのギャラリーなり展覧会に出かけていただいて、直接話をしていただければ幸いです。本日はどうもありがとうございました。

京都藝術トークイベント風景
トークイベント 2/2 ~第二部 京都でアートを見せること~ 10月中旬公開予定

スピーカー:
金氏徹平(美術家)/名和晃平(美術家)/ヤノベケンジ(美術家)

聞き手:
Antenna(アーティストグループ)/矢津吉隆(美術家)

京都藝術トークイベント 1/2 第一部 記事はこちら
京都藝術トークイベント風景


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