アーティスト紹介

山本太郎

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INTERVIEW WITH YAMAMOTO TARO 2011.03.15

作品について - 現状を楽むことや、現状はこうじゃないだろうかという素朴な提示

& : 太郎さんの提唱されているニッポン画とはどういうものか、お聞かせいただけますでしょうか。
「紅白幔幕図屏風」 2005

「紅白幔幕図屏風」 2005
Courtesy of imura art gallery

山本太郎(以下、Y) : 1つは「日本の今の状況を端的に表すこと」。次に「それを表すために古典絵画の技法を使うこと」。そして「諧謔(かいぎゃく)をもって描くということ」。この3つを大きな柱としています。
& : 太郎さんご自身が書いた「ニッポン画とは?」という文章に「桜が待ち遠しいのに、いざ咲いたらブルーシートを引いてしまう心」と記されていますが、これは日本人なら誰しも共感できるのではないでしょうか。ひとつの定番の風景になっていますよね。
Y : 以前海外の方と、そのことについてお話しした時、「せっかく桜がキレイなのに、あんなプラスチック製のシートを敷いたら台無しじゃないか」と仰っていました。でも日本人にとってはあれが当たり前ですし、天の邪鬼(あまのじゃく)な性格もあり、そう言われると「でも意外とキレイなんじゃない?」と言ってしまいたい気持ちもあって(笑)。僕の作品に関して「日本の今の状況を批判的に描いているんじゃないか」と仰る方もいますが、批判的な側面だけでなく、現状を楽むことや、現状はこうじゃないだろうかという素朴な提示としての側面も、多分に持ち合わせていると思います。
& : 京都造形芸術大学在学中から、日本画で現代的なモチーフを扱っていますね。京都に来てからこういった作品を描きたいと思い始めたのでしょうか。
Y : 作品が現在のような雰囲気になったのは京都に来てからですね。
山本太郎さん

& : 京都は木屋町の風俗街を少し抜けると祇園がありますし、祇園を抜けて八坂神社から円山公園に入るとブルーシートでお花見している。さらにそこでインド人がカレー売っているという、まさに混沌のワンダーランドみたいな場所ですよね(笑)。
Y : 京都は古いものがたくさん残っているし、住んでいる方も、それ以外の方も伝統を求めています。でも普段の生活はそれだけでは成り立たない。そういった部分と並行して、現代的な暮らしやすさも兼ね備えているので便利ですよね。さらに京都の人は新しいものやおもしろいものが好きだから、インドカレーとか全然受け入れてしまうような鷹揚(おうよう)さをもっている。こういった要素が全部MIXされて京都という空間が出来上がっていることがおもしろいと思います。
& : 太郎さんは僕がお会いする時いつも着物を着ていますし、美術だけでなく生活から日本の文化を大切にしている印象があります。日本文化に惹かれる理由を教えてください。
「白梅点字ブロック図屏風」 2006 Courtesy of imura art gallery

「白梅点字ブロック図屏風」 2006
Courtesy of imura art gallery

Y : 大学に入る前に、美術やそれ以外の普段の生活について、「自分たちが日本のことを全然知らない」ということを考えさせられる機会があったんです。それで単純に「日本の文化をもっと知った方がいいのではないか」と思い日本画を勉強し始めました。普通の人と入口が逆なのかもしれないですね。
& : 例えば、同世代の日本画家で、同じイムラアートギャラリー取り扱い作家の三瀬夏之介さんは「東北画は可能か?」というテーマを掲げて活動されています。三瀬さんとは交流もあると聞いていますが、太郎さん、三瀬さんどちらも日本画を再考しながら制作しているように感じます。
Y : 一つ上の世代の山口晃さんや天明屋尚さんなど、もともと日本画を専攻していなかった作家が、日本的な表現を始めた時期は、現代美術の西洋的な表現が行き詰っていた時期でした。そういった状況の中、山口さんたちは当時注目されていなかった日本古典絵画に突破口を見つけていったんです。山口さんや、天明屋さんのような先輩がいたということもあって、三瀬君や僕の世代の作家には、日本画の立場から日本独自の表現や、現代に合った日本的表現とは何なのかについて、考えていける土台がありました。こういったことを考えると、わずか10年のスパンだったとしても、歴史は積み重なっていると感じます。

個展『古典 - the classics -』について - 長く読み継がれている物語は、時代を超えて訴えるテーマを秘めている

& : 現在イムラアートギャラリーで開催中(2011年2月12日~3月19日イムラアートギャラリー京都にて開催。※現在は行われていません。)の『古典 - the classics - チェリー』で展示されている作品についてお聞かせいただけますでしょうか。
「隅田川桜川」 2010 Courtesy of imura art gallery

「隅田川桜川」 2010
Courtesy of imura art gallery

Y : この展覧会の前までは「誰が見てもわかりやすい」ということを意識して作品を作ってきました。見た目に派手だったり、見ただけでお腹いっぱいになるような作品も多かったと思います。でも年を重ねていくと、どうしてもそういう作品だけを作ってはいられなくなる。「あまり何も考えずに、楽しいだけの作品を描いていられたら」という気持ちもあるのですが、年齢によって食べるものも変わってくるように、自然と自分が描きたいと思う作品が変化してきました。以前に何度か、お能の作品を取り入れた絵を描いたことがあったのですが、今回はそういった経緯もあって、古典文学をベースにした作品をある一定量作ってみようと思いました。昨年4月から名古屋・東京・金沢・京都と、この作品シリーズで展覧会を循環してきました。
& : 以前までの作品は「現代的なモチーフと日本画」というギャップのおもしろさが中心に据えられていたように思います。それに比べて今回展示されている作品の多くは、陰と陽で言えば陰の要素が強いですね。
Y : 仰る通り今までは画面上での新旧のギャップや、コントラストで作品を見せてきました。今回はそこに古典文学のストーリーを加味することで、もう少し作品に奥行きを出したいと考えたんです。以前から「物語を作品に取り入れておもしろいことができないか」とは思っていました。
& : 今回の作品にどのような物語があるかお聞かせください。
Y : メインになっている作品『隅田川桜川』はお能の謡曲である“桜川”と“隅田川”という2つのお話をベースにしています。この2つのお話は筋書きが似ていて、どちらも「人買いに子どもをさらわれたお母さんが、長い距離を旅して子どもを探しに行く」というお話です。筋書きは途中まで一緒なのですが、最後が大きく違っています。“桜川”はハッピーエンドで、満開の桜の元、離れ離れになった子どもと再開できるのですが、“隅田川”は子どもの幽霊に会うんです。会うといっても、抱くに抱けない。幽霊なのですり抜けてしまうという演出で、「結局子どもには会えなかった」というお話です。この2つのお話を対にして、屏風(びょうぶ)の形でお見せしています。
& : なぜ数あるお話のカテゴリーから、古典を扱おうと思ったのでしょうか。
Y : 長く読み継がれている物語は、時代を超えて訴えるテーマを秘めていると思ったからです。自分と同じ世代の作家やもう少し若い作家で、作品の中に物語を感じさせるような表現をする人はいますが、多くの場合は「その作家自身の物語」を描いているという印象を受けます。僕は自分自身が毎日そんなにドラマチックな日常を送っていないので、語るべき物語がないから古典を扱おうということも理由のひとつです。そんなに古典文学を読んできたわけではないですが、お能は学生時代にお稽古したり、卒業してからも不定期的にお稽古していたので、古典文学の中では馴染みがありました。事件になること、ならないことを含め、親子関係が最近気になっていてたので、“桜川”と“隅田川”という選択になりました。
& : では今回は「メッセージを伝えるために物語を引用した」というのではなく、まずは「親子のことを題材にしたストーリーを扱ってみたい」というきっかけがあって、描きはじめたのですね。
Y : メッセージがあるとしたら、「親子の問題を考える」ということだと思います。

& : それはご自身が父親になったからでしょうか。
Y : 関係していると思います。“桜川”と“隅田川”を対の屏風にして組み合わせ理由は、この2つのお話が出来上がった過程に不思議な逸話があるからなんです。“桜川”はお能の大成者と言われている世阿弥が作ったお話です。今でも人気があるのですが当時から人気曲だったらしく、上演回数も多いと聞いています。一方“隅田川”は世阿弥の息子である観世十郎元雅(かんぜじゅうろうもとまさ)が作っています。あえて父親が作った“桜川”と同じような筋書にしながら、アンハッピーエンドにした背景には、何か特別な思いがあったのではないでしょうか。2つのお話のパラレル性がおもしろいと感じ、その関係性をより強く表現するために、左右の屏風を入れ替えても作品として成り立つように制作しています。
& : そのお話を聞いてから作品を見ると印象が全然違いますね。今回の展示には誰にも興味をもってもらえるという要素と、奥深さが共存している感じがします。
「花下遊楽図」 2011 Courtesy of imura art gallery

「花下遊楽図」 2011
Courtesy of imura art gallery

Y : そういったことを目指したのですが、作り込み過ぎたかなと反省している部分もあります。実際多くの方に楽しんでいただけたのでホッとしたのですが、『隅田川桜川』のお話を知っていて、さらに描かれているものを読み解くことができる人はかなり限られていますよね。解説文によってある程度は理解していただけるかもしれませんが、ギャラリーや展示スペースに長い解説文があっても、それを全部読んでくれる人は少ないので。それで今回の個展に合わせて制作した新作は、物語性を兼ね備えつつ、今まで描いてきた「誰が見てもわかりやすい楽しげな絵柄」という要素を増やして描きました。この辺りについては試行錯誤中です。
& : 作品を見て何かが引っかかり「どういう作品なんだろう」と考えたくなるような、入口の部分はとても大事だと思うんです。この作品を始めてみた時に「どういう物語があるのか」と引っ張り込まれました。
Y : 自分の思いとしても『隅田川桜川』を見て「どういうお話なのか調べてみよう」とか、「ちょっとお能を見に行ってみよう」と考え、一歩踏み込んでくれる人が1人でも2人でもいればうれしいです。
& : 古典的な作品に接し、その後にまた太郎さんの作品を見ると、また違う見え方がするような気がします。
Y : 双方向にいってくれると理想的ですね。
山本太郎さん

京都について - 街が大き過ぎないので疲れないことも、京都に住んでいる理由のひとつ

& : 現在京都にお住まいですが、大学でこちらに出てきて今もまだ京都に住んでいるのはなぜでしょうか。
Y : 単純なことですが、京都が暮らしやすいからです。ほどよく自然と都会のバランスが取れていますし、他の都市から移り住んできた人間から見ると街自体がキレイだと感じます。東京の大学を目指していた時期があり、受験などで当時東京に何度か行っていたのですが、そのうちに「街が大き過ぎるのでここには住めないかもしれない」と思い始めました。街が大き過ぎないので疲れないことも、京都に住んでいる理由のひとつですね。
& : 京都で好きな場所、思い入れがある場所はありますか。
Y : 家も近いですし下賀茂神社はすごく好きです。また僕は結婚式が人前式だったのですが、京都のとある能舞台をご好意で貸していただき、そこで式を挙げたんです。そこには思い入れがありますね。

& : 能舞台で式というのは珍しいですね(笑)。一般の方がレンタルできるものなのでしょうか。
Y : 僕が教えていただいているお能の先生に恐る恐るお願いしたら、OKしていただけたんです。貸出料金の設定があり、お能の会を行うために素人の方が借りたりはしているようですが、「式場として貸すのは、能楽師以外では初めてだな」と言われました(笑)。そこは京都観世会館のような一般的な劇場と違って、お客様が畳の席に座布団を敷いて観劇する劇場なので、座布団を敷けば室内会場のようになるんです。もちろん普段は式場じゃないですし、全部自分たちでセッティングしました。当日は知り合いの神社関係の方に、舞台上で三三九度をしていただきました。結婚式自体がイベントのような雰囲気になっておもしろかったですね。こういうことができるのも京都ならではだと思います。始まる10分くらい前まで、みんなに「そこ座布団足りていない!」といった指示を出していました(笑)。
& : ご本人が仕切っていたんですね(笑)。
Y : そうです。ギリギリまで指示を出していたため、「あと何ができていない?」と聞いた時に「新郎のお着替えがまだです」と言われたり(笑)。

社会について - 他のメディアが表現できない部分を表現していくこと

& : 2011年2月11月に放送された、毎日放送特別番組「ガラパゴスの穴」で、太郎さんの作品がスタジオの背景に使用されましたね。どういった形のセットを組んでいたのですか。
Y : 作品のデジタル画像を背景に合成していただきました。自分の手元にない作品もありますし、先方に画像をお送りして加工していただいたんです。
& : どういった流れでお話がきたのでしょうか。
Y : WEBや作品集を通してなのか、展覧会でなのかはわかりませんが、毎日放送のディレクターの方に、どこかで作品をご覧いただき声をかけてもらいました。
& : YouTubeを通じてセットを拝見したのですが、太郎さんの作品がバラエティー番組の背景になっているということ自体すごく不思議でおもしろかったです。ただバラエティー番組の背景に、作品イメージを使われることを嫌がる作家さんもいると思います。作品がある程度自分のコントロールを離れて展開していくことに抵抗はないですか。
Y : ない方ですね。自分の描いている作品も、結局昔の作品からモチーフやテーマを引用したりしていますし、広い意味で言うと二次使用ですから。「既成のものだけではおもしろくない」というのは基本的スタンスですが、おもしろいのであれば、コピーが氾濫していくことはいたしかたないことだと思います。
& : 経歴を見ていて、コレクション先で気になったところがありました。日本ケンタッキー・フライド・チキン株式会社(以下、ケンタッキー)の名前がありますが、コレクションされたのはカーネル・サンダースが描かれた作品でしょうか。
Y : ケンタッキーさんのロゴマークをモチーフにしている作品です。ケンタッキーさんには色々な形でバックアップしていただいていたので、そのお礼という形で寄贈しました。
& : もともと許可をいただいて制作していたわけではないですよね。
Y : 学生の頃は無知というか、若気の至りというか…。「アートは何でもありだ」という思いが強く、企業さんのイメージを勝手に使用することも多かったんです。あの作品を少し大きな場所で展示する機会があった時に、主催者側から「許可をとってください」と言われて、はじめて正式に許可を申請しました。そこではじめて承諾をいただいたのですが、たまたまケンタッキーさんが寛大な会社だったものだから勘違いをしてしまい、「企業さんはみんなこのくらい寛容なのかな」と思い込んでしまったんです。その後私だけでなく、ギャラリーのスタッフにも大変な思いをさせてしまいました。
山本太郎さん

& : 確か2006年開催した展覧会『日本°画屏風祭』の際に、「ケンタッキーに展覧会のチラシ持参でフライドポテトSがもらえる」という特典がありましたよね。あれは太郎さん発案ですか。
「ニッポン画K松翁図屏風」 1999 Courtesy of imura art gallery

「ニッポン画K松翁図屏風」 1999
Courtesy of imura art gallery

Y : はい(笑)。それも今考えればお恥ずかしい話なのですが、その時はなんでもお願いをしてみていたんです。その展覧会の時も「ケンタッキーさんのチラシの裏によくクーポン券がついていますが、そういったことが展覧会と組み合わせてできませんか」とお話をしてみたんです。その場で「検討してみます」という回答をいただき、その後快いお返事をいただきました。
& : 個人で運営しているお店だったら話が通ることがあるかもしれないですが、大手の企業で通常はありえないですよね(笑)。
Y : 感謝の気持ちでいっぱいです。企業さんにご協力いただいたことは、本当にいい経験になりました。当時四条界隈にはケンタッキーさんが2店舗あったのですが、その時はクーポンだけでなく、2店舗で店内展示をさせていただきました。その2店舗も含めた複数会場で展示を行ったのですが、ファーストフード店という多種多様な人が集まるところに作品が展示してあり、チラシをたくさんおいていただいたことで、元々美術に興味のないような方に他会場にも足を運んでいただけました。普段小さいギャラリーで展示をしても、興味のある方以外はなかなか来てくださらないことが多いので、そういう面では美術に親しみのない方を、多少ギャラリーに呼び込むことができたかなと思います。
& : 普段ギャラリーに足を運んでいる方ばかりでなく、もっと色々な層の方に見てもらいたいと思いますか。
「年末年始図屏風」 2008 Courtesy of imura art gallery

「年末年始図屏風」 2008
Courtesy of imura art gallery

Y : そういう思いは強いです。もちろん自分のスタンスだけが正しいというわけではなく、美術好きの人に喜ばれるような深い作品を制作する作家がいてもいいと思います。ただ、自分は業界全体の間口が小さくなっているように感じるので、もう少しだけ間口を広げてあげた方がいいかなと感じています。せっかくこれだけおもしろい表現がたくさんあるのに、一般の方が美術に接する機会が少ないので、自分を入口にして、現代美術に対しても興味をもってもらえればと思います。
& : 太郎さんは社会の中でのアートの役割にどのような可能性を感じますか。
Y : マスメディアを通じて発信されている表現の多くは、「マンガってこうじゃなきゃいけない」とか「映画ってこうじゃなきゃヒットしない」とか、受け手が受容する許容範囲がある程度限られていると思うんです。美術はそれを取り払ったところで表現できるので、他の分野がもっていない自由さで表現できます。社会の中で何か役割があるすれば、他のメディアが表現できない部分を表現していくことだと思います。


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