アーティスト紹介

杉原邦生

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INTERVIEW WITH KUNIO SUGIHARA 2011.07.11

活動について - 劇場に集まった人皆で空間を作ることによってパフォーマンスが立ち上がる

&ART(以下、&) : 杉原さんは演出家としてご活躍されている他、アゴラ劇場での舞台芸術フェスティバル<サミット>のディレクター務めたり、KYOTO EXPERIMENTでフリンジのコンセプトを昨年、今年ともに務めるなど様々な活動をしています。まずは杉原さんが現在どのような活動をしているかについて、お聞かせください。
KUNIO07「文化祭」 2010 こまばアゴラ劇場(東京) 撮影:清水俊洋

KUNIO07「文化祭」 2010 
こまばアゴラ劇場(東京) 撮影:清水俊洋

杉原邦生(以下、S) : 基本的には演出と舞台美術を中心に活動しています。舞台美術のみを担当することもありますし、チラシのデザインだけ手掛けることもあります。またKYOTO EXPERIMENTやサミットのような仕事をいただいた時には、コンセプターやディレクターを務めることもあります。今動いているカンパニーはKUNIO、木ノ下歌舞伎、teuto、M☆3の4つ。メインが主宰しているKUNIOというカンパニーで、よく動いているのが木ノ下歌舞伎です。KUNIOは既存の戯曲を演出して作品にする場として立ち上げました。ただそれだけだと、どうしてもおもしろくなくなってきてしまうということもあって、昨年の夏に既存の戯曲を使わずに僕が構成した『文化祭』という作品を制作しました。まず文化祭というタイトル、テーマを設定し一般公募で全出演者を募り、オーディションなしで、集まった31人全員に参加してもらいました。ワークショップを行いながら、役者に「プロットをこういう形にしてください」ということだけ伝え、セリフを考えてもらうなどして制作しました。それがめちゃくちゃ楽しくて、それ以後は「既存の戯曲でなくてはいけない」という縛りはなくなりました。今度はまた別のことをやりたいですね。
杉原邦生さん

& : 木ノ下歌舞伎ではどういった役割を担っていますか。
木ノ下歌舞伎「勧進帳」 2010 STスポット(横浜)、アトリエ劇研(京都) 撮影:東直子

木ノ下歌舞伎「勧進帳」 2010 STスポット(横浜)、
アトリエ劇研(京都) 撮影:東直子

S : 木ノ下歌舞伎は「歌舞伎の演目を現代劇としてどういうふうに立ち上げるか」を実験的に試みている団体です。例えばシェイクスピアの戯曲はこれまでに色々な演出で上演されてきていますが、歌舞伎の演目は“歌舞伎という身体様式/しきたり/システム”でしか扱われてきておらず、現代の若手演出家で手を出す人はほとんどいません。「古典である歌舞伎の台本を用いて、新たな切り口から歌舞伎の演目を上演する」ということを、歌舞伎発祥の地である京都でやってみようということがテーマとしてあります。後輩の木ノ下裕一君が主宰しているのですが、僕は主に企画委員として関わり、木ノ下君と一緒に企画の内容を考えたりしています。作品ごとに様々な演出家をキャスティングして制作するという体制で活動を展開しているのですが、僕はこれまでに演出を4本、舞台美術はもっとたくさんやっています。
& : 活動自体のステートメントにもつながると思うのですが、多彩な活動をしていく中で一貫して大事にしていることはありますか。
S : 昨日KYOTO EXPERIMENTのプレ企画で、舞台美術についてのシンポジウムがあり、舞台美術家の杉山至さん、長田佳代子さん、維新派の松本雄吉さんと「舞台美術とは何か」というお話をしました。杉山さん、長田さんはもともと建築畑出身なのですが、僕は「建築のように何かを建て込む」というよりも、俳優はもちろん、お客さんも含めて「そこに集まった人たちがパフォーマンスをするスペースを作る」というイメージで舞台美術を制作しています。舞台美術家としては一番そこに興味がありますね。演出家としても「劇場に集まった人皆で空間を作ることによってパフォーマンスが立ち上がる」ということがやりたいと思っています。ファッションショーやコンサート、ライブのようなスペースの作り方に影響を受けていて、最近は客席対舞台ではなく、お客さんが舞台を挟むような形が多くなっています。その他にも「お客さんを舞台の上に呼ぶ」という演出を試みたりしながら、「舞台全体が祝祭空間として揺れ動く」という体感を目指しています。“見る”という体感だけならば映画でも造形美術でも作ることができるかもしれないけれど、「身体のビートにしっかり響いていく体感」は演劇でしか作れないし、それが演劇の一番面白いところだと感じています。そういったことを演出という形で出すのか、舞台美術という形で出すのか、コンセプターやディレクターとして出すのかといったアウトプットの違いはありますが、目指すこととしては「体感した人がハッピーな気持ちになればいいな」と常に思っています。初めて演出したのが2003年で、もう8年目になるので、やっていることとやりたいことは少しずつ変わってきていますが、今思っているのはそういうことですね。

演出について - 新しくて皆がエンジョイできるような演劇のルールを成立させたい

& :愛知のうりんこ劇場で2011年3月に上演されたイヨネスコの『椅子』のラストシーンを引用して “表現”について伺っていきたいと思います。『椅子』のラストはポジティブな雰囲気を持ちながらも、役者の額にあらかじめつけておいた傷から、本物の血液が流れるというショッキングなシーンでした。「生身の人間から本物の血液が流れる」という出来事を、演劇に取り入れようとする場合、まず「それが演劇表現に帰結するか」という問題が出てきますよね。
KUNIO08「椅子」 2011 こまばアゴラ劇場(東京)、うりんこ劇場(名古屋) 撮影:清水俊洋

KUNIO08「椅子」 2011 こまばアゴラ劇場(東京)、
うりんこ劇場(名古屋) 撮影:清水俊洋

S : 僕は芝居の空間で起こっていることと現実との間に境界線を引いてしまうこと自体が面白くないと思っているんです。あのシーンは、ラストをどうやって不条理にひっくり返すかっていうことだけを考え続けた結果、役者の山崎皓司君自身から出てきたアイデアでした。血が出てきた時に、お客さんはまずあれが本物かどうかを考えますよね。それが「本物ってなんだろう」という考えに展開された瞬間に、「じゃあ演劇ってなんだろう」という疑問が生まれる。あの作品ではその辺りを揺るがしたかったのかもしれません。
& : 極端に言えば、演劇は“上手に嘘を観せる”ための装置じゃないですか。芝居空間で起こっていることと、現実の境界線を積極的になくし「どうやって嘘を吐かなくしていくか」を掘り下げていくと、演劇である必要がなくなってくる危険性もありますよね。演劇を放棄する方向へ進む可能性もあるのでしょうか、それとも現実を演劇に持ち込む試み自体を主題にしているのでしょうか。
S : 僕はたぶん演劇は放棄しないと思います。だって演劇大好きなんです。僕は「虚構を作りながら、それをどういうふうに現実と繋いでいくか」ということに興味があるんです。絶対的な現実を背負って観客席に座っているお客さんに対して、その現実を背負っていない俳優が舞台に立つということに違和感があるし、それは「演じるとは何か」ということにも繋がるないでしょうか。でも本当はそんな難しいことを考えてないんですよ(笑)。実際稽古場では楽しくやっていますし、基本的には「お客さんがどうやったら盛り上がってくれるか」とか、「どうやったらお客さんのテンションが上がるか」とかそういうことを考えていますしね。
& : 続いて影響を受けていることについて伺いたいのですが、杉原さんはEXILEのファンを明言していますよね。
S : 先日もJ Soul Brothersのライブに行ってきました(笑)。昨年もEXILEのスタジアムツアーに宮城、横浜、大阪、東京、横浜、神戸、名古屋合わせて計7回行ったんですよ(笑)。横浜の日産スタジアムはキャパが7万人以上なんですけど、7万人が14人に熱狂して盛り上がっているというのはやはりすごいですよ。

& : またディズニーも大好きと伺っています。そういうことを聞くとスタンダードなエンターテイメント志向を目指してもおかしくない気がするんです。ディズニーは徹底的にネガティブな部分を排除して、エンターテイメントを成立させるじゃないですか。そういう手法も一つの選択肢としてありますよね。
S : そう、ディズニーも超好きなんですよ(笑)。今すぐにでもディズニーランドに飛んでいきたいくらい(笑)。今までに6、70回くらいは行っていると思います。あの嘘を吐き通す完璧さはすごいですよね。チップとデールが一番好きで、ディズニーランドにいたら手を振って写真撮ってもらったりするんですけど、「中に汗だくの女の子がいるんだ」という残酷さって絶対にあるじゃないですか。僕はハッピーには常に残酷さが付きまとっていると思うんです。アニメでもハッピーに辿りつくためには、絶対に悪役が登場するし、パレードにも悪役が必ず出てくる。全体のイメージとしてはハッピーなんだけど、ディズニーのハッピーさも残酷さの上に成り立っているし、ただ楽しいだけではないと思うんですよ。だから僕のやっていることとあまり離れていると思わない。人生の中で楽しい時間なんてすごく短いじゃないですか。でも辛い時間や苦しい時間があるからこそ、ハッピーになれるわけで、僕はそういったこと全てを祝祭にしたいと思っているんです。
& : 中に人が入っているということは考えたりしてるんですね(笑)。心からエンターテイメントを楽しめている人って、ネガティブなことに対して目を伏せるタイミングがうまかったり、気付いても違うところに意識を持っていく巧みさを持っていたり、気付かないふりを持続するある種の盲信的な強さを持っていますよね。ある観点から言えば、前衛的な作品よりも、ある程度徹底してネガティブな部分が見えない演出の仕方をしているエンターテイメント志向の作品の方が、お客さんと作家の関係性は知的でシステマティックなのかもしれません。
S : ディズニーランドには暗黙のルールがあるじゃないですか。劇場にもそういうルールがあるのですが僕は既存のそれとは異なる、新しくて皆がエンジョイできるような演劇のルールを成立させたいと思っています。
杉原邦生さん

京都について - 京都と東京は街に流れる時間が違うし、マーケットのリズムも違います。

& : もともと演劇に興味を持ち始めたのは、どういったことがきっかけだったのでしょうか。
S : 母親がバレエをやっていて、歌舞伎も好きだったので、地方の公民館で1、2日上演されているような舞台をたまに見に行ったりしていたんです。芸術的センスのない両親だったので、僕が子どもの頃に「この展覧会が見たい」「このミュージカルが見たい」とお願いしたら、芸術に興味を持っていることを喜んでなんでも連れて行ってくれたんです。人形劇を観に行ったり、オズの魔法使いを観に行ったり。そういったことは演劇に興味を持つきっかけになりましたね。
& : その後京都造形芸術大学(以下、造形大)映像舞台芸術学科に入学します。なぜこの学科を受験したのでしょうか。
S : 高校の時は学校行事が盛り上がることで有名だった県立鎌倉高校に通っていて、そこで僕は行事王だったんです(笑)。周りから「邦生のいるクラスは盛り上がる」と言われていました(笑)。大学で舞台を専攻すれば一年中文化祭ができると思ったんです。僕は「前例がある」ということが好きじゃなかったので、大阪芸術大学や、日本大学藝術学部などのもともと舞台の学科がある大学には興味が持てませんでした。そんな時に、父親が造形大の情報を見つけてきてくれました。僕が入る年にちょうど劇場がオープンすると聞き、「好き勝手できるぞ」と考え、造形大だけを受験したんです。だから、大学に入るまでに舞台に関わったことはありませんでした。
& : 在学中はどのように過ごしていましたか。
S : 週5日で夕方6時から夜10時の4時間テレアポのバイトをし、給料をほとんど舞台のチケットにつぎ込んでいました。バイトは歩合制だったのですが、成績が良かったので時給1500円くらいあって、月10万くらい稼いでいました(笑)。京都に来てから今まで年間100本くらいは舞台を観続けているので、もう1000本以上は観ていると思います。最初舞台美術がやりたかったので、家に帰ったらその日観た舞台のスケッチと批評を書いていました。今見ると大したことは書いていないんですけどね(笑)。それを続けているうちに、自然に演出に興味が湧いてきて、自分でも演出をするようになったんです。だから授業公演では、舞台美術として参加することが多かったですね。宮沢章夫さんや川村毅さんの授業発表公演は俳優で参加しているんですよ。
杉原邦生さん

& : 学科では主にどういったことを勉強していたんですか。
KUNIO02「ニッポン・ウォーズ」 2006 京都芸術劇場 春秋座(京都) 撮影:中山佐代

KUNIO02「ニッポン・ウォーズ」 2006
京都芸術劇場 春秋座(京都) 撮影:中山佐代

S : 舞台美術を中心にやっていて、演出を始めたのは3回生の時です。遅めでしたね。でも本当にそれで良かったと思います。今の学生は皆、前例があるから焦って若いうちから演出しようとするけど、色々な舞台を観て知識を蓄えてから演出し始める方がいいと思いますね。
& : 様々な体験をしたうえである程度自分で「こうじゃないか」という仮説を立てられるようになってから実践に入る方がいいですよね。
S : 造形大1回生の授業にゲスト講師として毎年1度だけお邪魔させてもらっているんですが、必ず「焦らなくていい、焦ると良いことないぞ」と伝えています。
& : 京都と東京を行き来されていますが、都市間の違いについて感じることはありますか。
KUNIO06「エンジェルス・イン・アメリカ−第1部 至福千年紀が近づく」 2009 京都芸術センター フリースペース(京都) 撮影:清水俊洋

KUNIO06「エンジェルス・イン・アメリカ−第1部
至福千年紀が近づく」 2009
京都芸術センター フリースペース(京都)
撮影:清水俊洋

S : 京都と東京は街に流れる時間が違うし、マーケットのリズムも違います。それぞれの都市にそれぞれの良さがありますよね。京都はゆったり作品が作れるし、京都芸術センターのような貴重な稽古場もある。それはいいところなのですが、ちょっと保守的な印象を感じる部分もあります。僕はそのことについては劇場に責任があると考えています。京都には色々な都市から人の出入りがあるので、よく言われる京都人の性質のせいではないと思います。京都芸術センターは劇場よりも、稽古場施設としての設備を重視するというスタンスを明確にしていますし、京都芸術劇場も大学の劇場なので目的がある意味では明確ですが、他の劇場は劇場として何をしたいのか見えづらいところが多い気がします。それぞれの劇場が、「劇場として何を打ち出していきたいのか」というスタンスでお客さんを取り合うということが起これば、京都の演劇がもっと活性化するんじゃないでしょうか。もちろんそれだけでラインアップは組めないのですが、劇場にお客さんがついていないというのは問題だと思います。そもそも劇場の数が少ないということが大きな理由だとは思いますが、スタンスが明確な劇場って本当に少ない。僕自身も「この劇場でやってるなら観に行こうかな」ってほとんど思わないですからね。こういったことも10年京都にいて、いま東京と行き来しているから言えるのであって、そう考えるとそれなりに京都の演劇に対して愛情や愛着があるのかもしれないです。京都の演劇界って実際面白いですからね、他の地域と比べても。

社会について - 演出家は最高のお客さんじゃないといけない

& : 杉原さんはどのような人にご自身の作品を見てほしいですか。
HAPPLAY♥特別企画「文化祭 in KYOTO」 2010 アトリエ劇研(京都) 撮影:清水俊洋

HAPPLAY♥特別企画「文化祭 in KYOTO」
2010 アトリエ劇研(京都) 撮影:清水俊洋

S : マイナス思考になっている人が作品を観て元気になってくれたらいいなと思いますが、基本的にはどんな人でも良くて、本当に色々な人に観ていただきたいですね。僕は演劇がファッションになったらいいと思うんです。クラブ行くのも美術館に行くのも、一つのファッションになっているじゃないですか。良い悪いは別として、パリのオペラ座も、もともと社交場として機能していて、あの時代のパリは「おしゃれをして劇場に行く」というのがステータスだったわけです。僕は演劇やってるってかっこいいと思っているんですよ。「俺今日演劇行くんだ」「演劇行くんだ、マジ熱いね!」という会話を、皆が日常で自然にできるようになったらいいし、そうなれば「演劇やっている人はかっこいい」と思ってもらえる。
& : 杉原さんにとって「社会」とはどのようなものでしょうか。
S : 僕は資本主義といったような大きな意味も含め、社会のシステムに対して「嫌だな」と思ったことはないし、生き辛いと思ったこともありません。そういったシステムの中で当たり前に生きてきているし、それを覆すほど哲学的なことを考えるタイプでもないので。僕は社会という言葉を聞くと“仕事”という言葉を思い浮かべるのですが、僕自身は演劇を仕事だと思っていますし、演劇が仕事であるということが重要だと考えています。例えば仕事の基本として「ニーズに応える」ということがありますが、きちんとニーズに応えるためには常にリサーチし、お客さんのニーズをちゃんとキャッチできているかどうか自分に問いかけ続けないといけない。僕は演出家は最高のお客さんじゃないといけないと思うんです。芸術の場合、ニーズを意識していなくても「芸術だから」と言ってしまえるんだけれど、僕はそもそも「自分がやりたいこと」=「お客さんが楽しめるもの」ということが大前提にあるからきちんと把握しておきたい。

& : 商品のニーズだと素直に「こういうニーズがあるからこういうものを作る」と結びつけやすいんですけど、演出する上でそういうストレートな応え方をしてしまうことに抵抗はないですか。お客さんが満足してもらうということが前提にありつつも、自分が何かを発見したり、前進するということと共存させながら活動していかないと、バランスを崩してしまう恐れがありますよね。
S : それは難しいところですね。たとえば期待を裏切るにしても、お客さんが何を求めているのか知っているのと知らないのでは大きな違いがあると思います。知らないと裏切ることもできない。お客さんのニーズに応えることと、自分のやりたいことどちらかに偏っている人もいますし、それはそれでいいと思いますが、僕の作品はそうなるとつまらなくなってしまうと感じています。
& : バランスを見極める難しさはありますよね。
S : そうですね。でも自分の中でそのバランスを楽しむってことが一番面白いところなんです。そのうえで期待以上のものを常に返そうと思っていますよ。それはどの仕事でもそう。演出でも美術でもチラシでもトークでも、次の仕事へ繋げるためには求められた以上のものを返していかないといけないと思います。それが毎回できていればちゃんと社会人になれるかな(笑)。
杉原邦生さん


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